高級レストラン

・最近、ちょくちょく高級レストランに連れていかれる。

 

 元々僕は食にとんと興味が無い。スーパーの割引総菜と白飯か、あとはモヤシとシメジと豚肉とインスタント食品があれば生活出来る。事実それで10年ほど生活してきた。

仕事が遅くなったらスーパーに寄って半額か30%引きの総菜や弁当を買い込む。お弁当系は冷凍庫に放り込んで次の日に弁当として職場に持って行くこともある。

割引総菜、弁当が無い様な日はモヤシとシメジ、それと豚肉を買ってそれをソースと麺で炒めて焼きそばにするか焼きうどんにするか、それかインスタントラーメンにぶち込んで食べるかだ。基本このローテーションで10年以上暮らしてきて健康上は問題が一切無いし、あまり食にこだわりが無いのでそれがストレスにもならなかった。

 

 しかし彼女は所謂グルメというやつだ。週末は大体、紹介性のレストランや割烹、星付きレストランを食べ歩いている。僕も一度だけついていったことがあるけど、僕の半月分の食費を一回であっさり使うので行くのを辞めた。ふざけんなっつーの、俺が200円引きの弁当を狙うために心躍らしてスーパーに行ってた時間は何なんだ。たまにお寿司のパックが半額の400円くらいで買えるとすごく嬉しくなって、ついでに発泡酒とかも買っちゃおうかななんて気になって、夕飯に600円も使っちゃうけどたまには贅沢してもいいかななんて思ってた俺の細やかな幸福は一体何だったのか。

 

 赤坂の廻らないお寿司屋さん、ビール一杯と10カンほどの握り+小皿の料理が幾つかでお会計

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15000円

 

 いや無理だわこの食事。

 いやこの界隈じゃ適正価格なんだろうけど、俺の生活コストからしたらとんでもない贅沢、年に一回あるか無いかくらいでいい。つーかそれでもたかが一回の食事程度で15000は使えねーよ。格安ソープ一回行ける金額だぞこれ

 

 ってわけでそれ以降は誘われても一緒に食事に行くのを避けていたのだが、最近は彼氏がいるのに一人でいつも食事に出てるのを周りに不審がられたのか、無理にでも僕を連れ出すようになった。最初は半額出すからと言っていたが、それでも一回の食事が5000円オーバーなので何回かは断ったら、最近は全部出してくれるようになった。

 

 はい、控えめにいってもクズですね。僕もさすがに申し訳ないから断ろうとしたんですが、途中ふと気づきました。俺ってヒモじゃんと。ヒモである時点で最早社会の最底辺、スカベンジャー、ミイデラゴミムシ、今更取り繕ったって大して変わらないよとね。ってわけでヒモはヒモらしく素直に奢られる立場を受け入れることにしました。

 

 そんで最近、星付きのお店とかテレビでよく取り上げられる有名店とか何度か行きました。代官山とか青山とかにある感じのね。そうなると問題になってくるのが服装。僕って靴ってコンバースのスニーカーとデニムとパーカーくらいしか持ってないのよね。一応ユニクロでジャケットとチノパンは買ったけど… 何か場違い感は否めない。他の席の人はブランド物のいい服着ていい時計つけて、いい靴履いて優雅にディナーを決めている。何ならいまその上にのっていう一皿の料理だけで僕の一張羅全部買えますから。だいたい一本数万するワインをとか皆旨い旨いって言いながら飲むけど俺よく分からんのよね、渋いだけじゃんアレ。そもそもそんなお酒飲めるタイプじゃないし。

 

 僕は自分が着ている唯一のフォーマルウェア一そろいより高い飯を食べているわけだ。お店の人にどう見られているのかは知らんし、考えたくも無い。ただ最後の会計の時、伝票をどっちに渡すかテーブルの前で途方にくれるのだけは辞めてくれ。僕もさすがに心が痛いw

 

 しかし思うのだが、高い店って確かに料理の味は旨い。肉の火の通し方とかソースの風味とか確かに絶妙且つ複雑なバランスで超絶技巧の上に成り立っているのだろうとは思う。けどそれに普段食べる料理の10倍近い額を払えるかと言われたらよく分からない。おまけに堅苦しいフォーマルな服装までして、クラシックとか流れる静かな店でマナーとかに気を張りながら食べる料理の味はよう分からん。

 それなら俺は一切気を遣わずに済む街の定食屋さんみたいな場所が落ち着く。テレビやらAMラジオがガンガン流れながらたまにオッサンや店主の罵声が飛び交って昼間からビールとか飲んでても違和感が無いお店、そこにサンダルでデニムにパーカーとかで出かけて生姜焼き定食とか食べてる方が好きなんだよな。

 

 まあこの辺りが底辺から抜け出せない(必要性も感じられない)人間の感性なんだろね。まあ俺は一生井戸の底の底辺でウロウロしてますわ