読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

無職ヒモ日記24

 〇 カルガモ狩り

 

唐突であるが、カルガモの雛を捕まえるのが趣味である。

 

何かの比喩とかでは無い。紛う事無くカルガモの雛を狩るのである。

 

これはもう性癖に近いと言っても良い。毎年6月~8月のカルガモの繁殖期になると血が沸き立ってしょうがないのだ。ネットニュースやTVでカルガモの赤ちゃん誕生とかカルガモ親子の大行進、などという映像を見た日にはもう止まらない。体が震えて現場に今すぐ向かいたくなるのだ。

 

この性癖に目覚めたのは小学校低学年くらい、実家は両サイドを川に囲まれているという、希有な立地に生まれた俺は夏になれば毎日川に入って遊ぶほどの川っ子であった。

 

そんな川っ子の俺はある日カルガモの親子に遭遇して興味本位で接近しすぎてしまった。それがカルガモ母の逆鱗に触れたらしい。彼女は羽を水面に叩きつけながら嘴を突き出して俺に飛び掛かってきたのだ。当時まだ身長140cm程度の小柄の俺、体長60cmあまり、翼を広げたら90㎝ちかくあるような野生動物が威嚇しながら猛烈な勢いで迫ってくるのは恐怖以外の何物でも無かった。当時の俺は服が濡れるのも厭わず川を走って転びながら泣きながら逃げた記憶がある。

 

これが俺とカルガモの因縁の始まりである。

 

その記憶が俺の心に与えたトラウマは大きかった。人間がカルガモ如きに舐められてたまるか、俺は万物の霊長なる人間様ぞ。鳥類如きにコケにされてたまるかと、夜な夜な涙し復讐を誓ったものである。

 

それ以降、毎年カルガモの繁殖期になると俺は子連れカルガモハンターと化した。

 

まずはカルガモの巣を見つけるところから始まったのだが、これが難しい。彼女たちとて野生動物である。野良猫やカラスや鼠など、天敵に容易に見つからぬような場所に巣を作り卵を温めるため、小学生の浅はかな頭では見つかるはずも無い。

 

巣を探し続けて幾星霜、結局発見出来たのは偶然で見つけた2回のみである。ちなみに卵を温めているカルガモをどうにかするのは人道上どうかと思ったので、見つけた後は定期的に観察するだけに留めておいた。

 

次にカルガモの生態である。都会の池などで人に慣れたカルガモと違い、田舎のカルガモはそれなりに人を警戒している、トビやカラスなどもいてヒナが狙われる率が都会に比べて高いと思う。故にヒナがまだ小さくて狙われやすいうちは開けた場所を泳ぐ機会は少ない(少なくともうちの地方は)川岸のギリギリを泳ぎ、水面に垂れた木や草の隙間を縫うようにして泳ぐことが多い。これは彼女たちの植生が雑食で水草、草のたね、タニシなどを食べる点からも餌を探す作業を兼ねている部分もあるかもしれない。

 

また雛を抱えている親鳥は非常に警戒心が強い、カルガモの警戒は非常に分かりやすい。首の長さでその個体の警戒度が分かる。首をすぼめている状態は警戒を解いている。この状態はほぼ無警戒であると言って良い。

f:id:chonny:20170314215414j:plain

逆に警戒している時は首を長く伸ばす。

f:id:chonny:20170314215812j:plain

特にコガモを抱えている時の母ガモの警戒心はなかなかに高い。オスがこの時期、岸寄りを泳ぎながら警戒心をあらわにしながら餌を食べてる姿をあまり見ることは無い。

 

つまり岸寄りを警戒心露わにして泳ぐカルガモがいたら高確率で雛を連れているカルガモである。

 

小学生だった俺は当時、学校が終わると川上から上流にかけてくまなくカルガモをチェックしてカルガモの雛を探したものである。

 

カルガモの雛を見つけたら… ここで雛を捕まえる場合に重要なのはコガモの習性と親ガモの習性である。カルガモのように、生まれてすぐに巣を出て泳ぎ始めるような鳥は擦り込みといって卵から出てすぐに目にしたものを親と認識する。それ故、ヒナたちは親ガモから離れず後ろをずっとついて泳ぐのだが… コガモは危機に直面すると、親ガモの元から真っ先に逃げ出す。コガモとは思えぬ速さで一斉に散り散りに泳ぎだし、草むらに逃げ込むのだ。これは非常に賢い選択である。固まって逃げるよりバラバラになって逃げる方が全体としての生存率がかなり上がる。おまけにあの小さな個体で草むらに入られたら見つけるのは困難だ。

 

親ガモは親ガモで、偽傷行為とは違うが翼を水面に叩きつけながら大きな音を出してこちらの注意を引こうとする。そうしてコガモの逃げた方と反対側に狩人を誘導しようとする。コガモは親の後を追うものと思ってこれを追いかけると、コガモが全くいない方向に連れていかれてしまうので注意が必要である。

 

さて、逃げ出したコガモと親ガモであるが、上手く敵から逃げ通した後はどうやって再開するのだろうか?

 

親ガモは危険が去ったと思われるタイミングで、コガモとバラバラになった地点に帰ってくるのだ。それまではどこか遠くに飛び去っていたり、狩人を遠くに誘導していたりする。

周囲を警戒しながら、敵がいなくなったことを確認するとヒナを呼ぶ独特の鳴き声を発する。そうするとそれまでバラバラに散って草むらに隠れていた雛たちはその鳴き声を聞きつけ集まってくる。それ以外のことでヒナたちが隠れている場所から出てくることはほぼない。

 

また更に急な危機、例えば岸から遠い開けた川面であったり直上から急にトンビに襲われた時などは、ヒナは水中に逃げる場合がある。あの小さな体で平気で30秒~1分以上は潜ってたりする。その際は瞬膜と言われる半透明状の二枚目の瞼を閉じてゴーグルのようにして水中を泳ぐのだ。

 

これらの習性を把握した上で、川でどうカルガモの親子を狩るかである。

 

俺が選択した方法は網を持って土手沿いの道を徒歩で移動し、見つけた場合即急襲である。ヒナは小さく、手で捕まえていたのでは効率が悪く、またすばしっこいので逃しやすい、また先述した通りに水中を潜って逃げる場合がある、それ故に網で捕まえることが効率的に優れている。また川の中を移動しながら探していたのでは音でバレるし、何より水に足を取られて動きにくい。土手を歩きながらひたすら探索するのか最も効率が良いのだ。

 

見つけた場合どうするか? カルガモの場合、川を泳いでいれば陸上の動物が水の中まで追ってくることは無いと高をくくってる節がある。発見して川岸まで下りていくと、大抵は川の中ほどでこちらの様子を伺いながら中程度の警戒でこちらの様子を見ている場合が多い。この時がチャンスである。

 

カルガモ親子と向こうの川岸と俺が一直線の線を引いて直角になるような位置取りをするのがコツである。この場合なるべく浅瀬の方が好ましい、目安は脚の膝を超えない程度(理由の説明は後程)。タイミングを説明するのは難しいが、親ガモが隙を見せた瞬間に襲いかかるのである。岸を勢いよく蹴って川に飛び込む、先に説明したが浅瀬であることが重要なのはこの際の機動力がモノを言うからである。深ければ深いほど足を取られて動きが鈍くなるからだ。カルガモ親子と接触する時間が短ければ短いほど良いのだ。

 

俺の動きを察知してカルガモ親子が取る行動は一つ、親ガモは俺に向かってくる。コガモたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。親ガモには目もくれず、慌てふためくコガモの群れ、その瞬間を捉え網ですくうのだ。なるべく多くが逃げている方向に網を向け一気に振り下ろし網のなかに閉じ込めすくいあげる。その後は取りこぼしたコガモにすぐ視線を向け、追いかけられるようなら追いかけて手で捕まえる。草むらに逃げた場合はどうせ見つからないので諦める。ただし場合によっては水辺と岸の隙間に身を潜めていたり、水中に潜っている場合あるので周辺を目を凝らしてよく探すと良い。

 

こうして捕まえたヒナたち。狩りが終わった後はスタッフが美味しk… って、んなわきゃない。

 

コガモはまだ小さく肉なんて無いに等しい。食べるところなんてほとんど無い。じゃあ家で飼うかと言われたら、残念ながら擦り込み済みのコガモを飼うのは非常に難しい。あとうち親はペット禁止だったし。

 

じゃあどうするかと言われたら親ガモが戻ってきた時に帰します。親ガモが子を呼ぶ合図は先に説明した通りである。狩りが一通り終わって満足して一息ついている頃に親ガモは戻ってきて逃げたコガモを呼び始める。その時、俺の魔の手から無事逃げ通せたコガモたちが草むらから出てき始める。そのタイミングで網からリリースするのだ。

 

キャッチアンドリリース。これが基本であった。そうやって俺は何年もカルガモ狩りを繰り返していた。年々精錬されていくカルガモの雛取り。カルガモの雛を飛び道具無く捕まえる技術では当時、日本でトップ3に入る自信はあった。ちなみにこの狩りの趣味は高校3年まで続いた。高校3年の集大成として、今度はヒナでは無く、成長したカルガモを捕まえて友人たちと食すということをした。川岸に七輪持参である。捕まえたカルガモを血抜きし、ニンニク醤油をかけて七輪の炭火で焼いて食べたのだ。なかなかの美味であった。

 

そんな若気の至りであった。

 

大人になってからはそんな気すっかり失せて… と言いたいところだが、先に書いた通りに血が疼くのである。まるで邪気眼かのように、カルガモ特集などを見るたびにウズウズするのである。

 

まあさすがに成人した大の大人がしかも東京でカルガモを捕まえるなんて、常識としてあり得ないでしょ…と思うのは素人の浅はかさ。俺は何を隠そうヒモである。もう一端の大人の社会常識など遠の昔に捨て去っている。

 

具体的に言うと板橋のA公園の池なんですがね、これが深くて胸まで浸かるんですが、そこを発泡スチロールの空き箱で作った板をビート板代わりにしt… おっとこんな時間に来客だ。彼女が帰ってくる時間にはまだ早いし誰だろう?